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「チャールズ・ウォードの系譜」朝松健、立原透耶、くしまちみなと著
皆様のご感想をお待ちしています。
  • クトゥルー@創土社
  • 2013/06/25 (Tue) 14:29:09
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三作中、二作がマイケル・リーもの?
チャールズ・ウォードに捧げるばかりかマイケル・リーに迄捧げた作品集。あの世でヘンリー・カットナーも喜んでいるのではないだろうか。
●朝松健「ダッチ・シュルツの奇怪な事件」
朝松氏の「聖ジェームズ病院」の直後ぐらいの話。前作に登場したアル・カポネやマイケル・リーも名前だけ出て来る。今回、若き林不忘が居ないのが残念。代わって主役を務めるのは邪神帝国でも主役だった日本の軍事探偵。どうやら朝松氏のシリーズキャラクターらしい。
なお本作は「聖ジェームズ病院」の続編なだけでなく「チャールズ・ウォードの事件」の続編であり「レッドフックの恐怖」の続編でもある・・・と云う複雑な構成。
さて、この主人公、次はどんな舞台でクトゥルー神話に関わってくれるか楽しみだ。
●立原透耶「青の血脈~肖像画奇譚」
一見、相互に繋がりの薄いオムニバスの感じだが、全部読み通せば時空を超えた一つの物語が、ヒーローである男と、少女の戦いの物語が見えて来る。マイケル・リーも活躍。
確かに「チャールズ・ウォードの事件」のオマージュと云っても通るが、「ピックマンのモデル」のオマージュと云っても通りそうな作品だ。いや、一番は「ドリアン・グレイの肖像」のオマージュか。ドリアン・グレイとアンブローズ・ビアスとの知られざる繋がり(!)も語られている他、アンブローズ・ビアスの失踪もロバート・E・ハワードの自殺もH・P・ラヴクラフトの急逝も、みな、根は一つだったとは・・・
それにしても本作は奇しくも怪奇小説の古典「ドリアン・グレイの肖像」をクトゥルー神話に取り込んだ作品と云えよう。
●くしまちみなと「妖術の螺旋」
収録されている三作のうち最も「チャールズ・ウォードの事件」のオマージュを感じさせる作品。とは云え、この本に収録されていなければ、そうとは気付かなかっただろう。中途半端な興味と欲望から魔術に手を出した鏡子と云う名前のヒロインは自分の姿を紛い物に写し取られると云う皮肉な目に遭い、しかも助かったと想った矢先、魔術の代償として自分を待つ恐ろしい運命を知る事に・・・・・・魔術師の十一夜は今後もシリーズ・キャラクターとして活躍してくれそうな気がする。

今回もどの作品も魅力的だったが、一方で、そうと知っていなければ「チャールズ・ウォードの事件」のオマージュとは判らない作品ばかりでもあったのが「ダンウィッチの怪」であった前の巻との違い。結局、「ダンウィッチの怪」はYog-Sothothと人間のハーフを出せば済んだのだが、「チャールズ・ウォードの事件」の場合は、何を持って来ればそうと判るか・・・と云う所が悩み所なのだろう。
  • ZEPHYROS
  • 2013/06/29 (Sat) 00:23:18
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Re: 「チャールズ・ウォードの系譜」朝松健、立原透耶、くしまちみなと著
◆ ダッチ・シュルツの奇怪な事件

朝松健といえば、西洋の儀式魔術に精通しており、これを使って「アクションが書ける!」という希有な作家だと思う。
その一方で、あれもこれもクトゥルーものになるという、稀代のクトゥルー作家でもある。
しかしながら、このところは長らく、時代もの+クトゥルーという組み合わせが多く、一部のファンを歯がみさせていた。
……いや。時代物もいいんだよ? しかし、マジカルソルジャーものっぽいものを読みたいじゃないか。
そのフラストレーションに堂々と応えたのが本作である。
先般、同じCMFで再販された『邪神帝国』に先立つ時代のもので、堂々のギャングものだ。
シカゴ・タイプライターが響き渡るアメリカ、ラッキー・ルチアーノに対するは謎の力ヲ背景にしたダッチ・シュルツ。
その抗争の立役者となるのが、なんとまずは日本人。
そして、コルト・ネイビーを操る謎の「ヴァージニアン」。
カネに汚く、いかにも怪しげな、魔術師マルカトー。
キャラクター配置を見ただけでも、面白くないわけがない。
最初から最後まで、余すところなく堪能した。

朝松健のマジカルファイトを心待ちにしていた身には、マルカトーの活躍が面白くてならないのだが、
キャラクターの好みは「ヴァージニアン」。
名前が明らかにされていないこの男、別にサーベルをふるうわけではないので、バルスームに去った「あの人」とは、
縁もゆかりもない、別のヴァージニアンなのであるが……。
雷管式の拳銃で走るビュイックの窓から、たったの三射で三人の敵を始末するとか、もうね。
燃えます。

◆ 青の血脈~肖像画綺譚

日本でのシーンを枠物語として設定しながら、ヒロインの「記憶」を「血」と「夢」に託した時空の旅を通じ、
物語が中国、英国、米国に及ぶ。
中国ものは、作者が最も得意とする分野なのだそうで、中華独特の画法や、仙術を、現代の中国、清帝国をつなぎ、
場所は北京からシャンバラまで。
見鬼である姉弟の血筋をうまくあやつり、世界に血脈の糸をはりめぐらせていくのだが、
その随所に年季の入った幻想譚のファンを喜ばせるくすぐりがたっぷりと用意されていて、にやにやせざるを得ない(そういうくすぐりに気づかなくても勿論面白いことは言うまでもない)。
あの作家がこの作家がその作家が……言うまい。
作家以外のキャラクターに関しても同様の事が言える。
単なる「血筋」ものでないのは、夢をも使うことによって、まさしく主人公に時空を「超越させ」ているところで、
時代も舞台も、いろいろと前後していく。
……そう、時空を超越するという点は、まさしく旧きものどもの特徴とするところだ。
そして、実をいうと、その点と、端々の描写で描き出されるだけで、この物語、クトゥルーの「く」の字も出てこない。
そこがまさに見事。
名前を出さずにいながら、これほど凄いクトゥルーものなど今まであっただろうか?
ラストのひねりは、格別クトゥルーもののファンでなくとも、恐怖譚が好きなら大いに納得がいくものだと思う。

◆ 妖術の螺旋

まず、本の使い方が面白い。
そこにまつわる「怖さ」は正統的なホラーの手法であり、かつ目新しいものだが、なにより、本を読むのが好きな人は、
古い本がかもしだす、独特の怖さとかおぞましさといったものを想起して、身震いせずにはいられないだろう。
作者は朝松健ファンなのだそうで、なるほど、語り手である女性がとらわれていく過程は、朝松健作品を彷彿とさせるところがある。

物語の枝葉末節、そして文章には、つっこみどころの多い作品ではあるが、そこを気にしなくてもいいくらい、
仕掛けと展開が面白い。
オーソドックスでこそあれ、期待通りに転がっていく物語は、本を置かせなかった。
  • とら
  • 2013/07/11 (Thu) 09:04:46
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Re: 「チャールズ・ウォードの系譜」朝松健、立原透耶、くしまちみなと著
『チャールズ・ウォードの系譜』読了。

まず以って痛感したのは「何で俺、今まで朝松健読んで無かったん?」と言うこと。『ダッチ・シュルツの奇怪な事件』はそれだけのものであった。次は『邪神帝国』を読んでみよう。

二篇目、立原透耶『青の血脈~肖像画奇譚』。ビアースをも取り込んだラブクラフトも斯くやという壮大な物語にくらくらさせてもらった。一度読んだくらいでは全部把握しきれてないと思う。オチの「ああ、やっぱり」感が虚無的でまた良い。リーさんこそ大迷惑だろうがw

三篇目くしまちみなと『妖術の螺旋』。千葉県夜刀浦市を舞台にした、クトゥルーとしては正統派とも言える「魔術師の破滅」もの。ただ、現代を舞台として、どこにでもいるような女子大生が嵌って(嵌められて)行く様が語り口も相俟ってぞくぞくとさせられる。
ややネタバレになるようだけど最後の方で颯爽と現れるヒーローに助けられた、と思いきやそんなことはありませんよという無慈悲なオチがたまらない。ことクトゥルーにおいては、高名無名に関わらず魔術師は自滅していくものだ。いや、三篇とも、実に読み応えあった。ご馳走様でした。
  • B.a.k.a.ぼうなす
  • 2013/07/17 (Wed) 07:46:24
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Re: 「チャールズ・ウォードの系譜」朝松健、立原透耶、くしまちみなと著
「ダッチ・シュルツの奇怪な事件」…アウトローな世界で、個性的な3人が手を組んで事件に挑むのが小気味よい。
「青の血脈」…時代の交差が少し繋がり難い所もありましたが、工程を丁寧に描いているな、と感じました。
「妖術の螺旋」…クトゥルフ古典によくある”一般人が手記を元に禁断の世界に足を踏み入れる”話ですが、現代的で余韻もあって良かった。
  • ルシュエス
  • 2013/07/21 (Sun) 09:19:27
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Re: 「チャールズ・ウォードの系譜」朝松健、立原透耶、くしまちみなと著
■「ダッチ・シュルツの奇怪な事件」

舞台は米国。なのに主人公は日本人?!
思わず『邪神帝国』を引っ張り出して読み直しました。

再登場(時間軸はこちら先)の主人公はギャングに汚れ仕事を強要されて、映画さながらに銃撃戦から魔術戦あり舌戦ありと異常な状況に巻き込まれ度合いを増しつつも結構順応しているところがなんとも。
果ては病院内の探索ではまるで古典怪奇映画の”博士”と”ねむり男”よろしく(?)と、密偵と謎の男と魔術師。この有り得ない三人組が30年代のニューヨークを闊歩します。

「またしても、コメディー?」
と思わせておいて、黒幕登場からは暗転、”尋ね人”と暴動の真相の判明…。
密室での暗闘、”重症患者”の開放とやはり怪奇でホラーです。怖いです。
(映画『悪魔の墓場』の一場面が目に浮かび…)

しかし、「落とし前か。」との突っ込んだり、人種も違えば境界の向こう側の”異人”を”戦友”と呼んでみたり、主人公は意外にこの事件を楽しんでいた印象?
清々しさすら感じるラストは『邪神帝国』と随分違ってますが、軍人ではあっても魔術師では無い彼。ドイツに赴くまで少々時間がある様です。どこかで、三度”巻き込まれ”てしまうのか?
(クトゥルー物の定番”巻き込まれ系”に、新ジャンル”拐かされ系”加わりそうです。)

また、歴史物に疎い私には、『小伝』と解説での実在登場人物の詳細がわかり良かったです。しかし、俗っぽくて憎めない魔術師が、あの小説の登場人物とは…。ちょっと妄想を掻き立てられますね。


■「青の血脈~肖像画奇譚」

始まりは、なんとも現実的でやるせない女性の日常。
そこから古今東西、地球一周、”忌まわしき世界旅行”とでも言うか、あまりに遠大な物語に何度も読み直しました。
(まだ良く分かっていない気が…。)

既に感想を書かれた方も書かれていらっしゃる様に、至るところにラブクラフト成分がちりばめられています。
米国での残された手記(!)では思わず、「窓に!窓に!!」と自分が呟いていました。

「ダッチ・シュルツ~」では意思が正しければ魔術は”白”になると言う表現がありました。が、こちらでは、良かれと思い幸せそうに描いた肖像が思わぬ結果をもたらし、意思とは無関係に行為が決められた結果を導く、なんとも絶望的な…。

そして、劇中何度と無く言及された”四角の眸”。もしやこれはあの”動物”のそれと似ているのでは?そう考えると、始まりも終わりも無い物語の一部を覗き込んだ妙な気分になってしまいました。

余談ですが…、
札幌の洋館のくだりでは、思わずネットで舞台になったお墓を地図で検索しました。
経路がやや具体的に描かれていると思わず、もちろん出て来る訳はありませんが。
ちょっと、おかしな楽しみ方をさせて頂きました。(苦笑)


■「妖術の螺旋」

まさか、”夏休みの自由課題”的な軽いノリで錬金術が成功すれば…。
ハンズで売っている様な身近な材料と機材で、元素変換や核化学を行う様なもの。
それは思わずハマってしまうのが人情と言うものです。
作中でも、分からない事を祖父やネットで情報を得て、自身で確かめない主人公。
なんだか、自分自身に思いあたってしまいます。

それはさて置き…、
”日本のアーカム”(インスマスも?)と表現をみた事がありましたが、初めて夜刀浦が舞台の作品を読ませて頂きます。
電車から降りてから高祖父の屋敷までの道中、家での探索、見つかる本、鍵、彫像!
この辺りはアドベンチャー・ゲーム的展開で楽しくあります。
そして、主人公が出会ってしまう存在(名前が!)この作品も『チャールズ・ウォードの事件』だけで無く、いくつものラブクラフト作品の二重三重のオマージュになっているのですね!

さて、物語の終わりは、何故危険な魔術が残されるのか?そんな理由の一端を感じる締め括りでした。
夜刀浦、まだまだ、事件が起きそうです。



正直なところ、『チャールズ・ウォードの事件』はクトゥルー神話?と思っていました。ですが、諸先生方の作品は拝読後は、そんな拘りは無くどれも楽しめました。

そう言えば、解説にマイケル・リーと共に山田博士の名前がのぼりました。まさか血縁者がスーパーマーケット事業に乗り出していたりは…しませんよね?
それはともかく、アンソロジーのテーマをオカルトハンター物でもやって頂きたいところです。
  • MA
  • 2013/07/24 (Wed) 18:51:30
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Re: 「チャールズ・ウォードの系譜」朝松健、立原透耶、くしまちみなと著
朝松先生の「ダッチ・シュルツの奇怪な事件」
今まで朝松先生の作品を数冊読みましたが(邪神帝国、崑央の女王含め)それまでの作品は良い意味でクトゥルー世界の重苦しさを感じさせるような文章でしたが、それらに比べ手軽に読めました。かといえ、ストーリー構成はしっかりとしていた為か、ストーリーがしっかりと残る…そんな印象のある作品だったです。邪神帝国のあの人が再度出た為か、日本人として感情移入しやすかったですしね。
立原先生の「青の血脈~肖像画奇譚」
これは、一読しただけでは解りにくいかもしれません。ただ、それぞれの章は丁寧かつ情報が散りばめられており、まるでジグソーパズルを作っているかの錯覚を感じました。「え?これが?」みたいな関連がなさそうで実はあった、みたいな事がいくつもあり文章をさらに引き込むような感じをしました。

くしまち先生の「妖術の螺旋」今回どの作品も印象ある内容ぞろいでしたが、この「妖術の螺旋」が一番心をえぐられました(笑)「かんづかさ」「ウィップアーウィルの啼き声」とどちらかと言うとライト感覚(自分の印象ですが)に読めた、くしまち先生の作風がガラッと変わりました(笑)ある意味、カウンターを食らった気分です。
朝松先生の作品を読んだ時のように、描写がまとわりつくような感覚に陥り、気持ちを不安定にさせるという感じと言いましょうか…読み終えた後は暫く思考がまとまりませんでした。
特に、最後に魔術師が主人公に向けて言った台詞が印象深さをさらに強くしました。

今回もまた素晴らしい作品に出会えたのは嬉しい限りですね。
  • 月見草
  • 2013/08/02 (Fri) 13:19:56
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Re: 「チャールズ・ウォードの系譜」朝松健、立原透耶、くしまちみなと著
 創土社クトゥルー・ミュトス・ファイルズの第6巻、(おそらくは)編集者渾身のアンソロジーである『チャールズ・ウォードの系譜』を読了した。オリジナルは言わずと知れたH.P.L.の『チャールズ・デクスター・ウォード事件』("The Case of Charles Dexter Ward"、『チャールズ・ウォードの奇怪な事件』、『狂人狂騒曲』)で、このアンソロジーは元ネタに愛情を持っている作者がオマージュの形で競作した三作の中短編小説で構成されている。これが驚いたことにいずれもかなりの力作揃いで、しかもまったくテイストが違って楽しめる。まさにクトゥルー神話の持つ広がり・深みと可能性を我々読者に伝えてくれるような良質のアンソロジーとなっている。

 まずは朝松健先生の『ダッチ・シュルツの奇妙な事件』。部隊は米国。第二次大戦の勃発前に彼の地でスパイ活動に従事する日本の間諜が、暗黒街の顔役に半ば脅されて正体不明の魔物退治に力を貸すことになるお話。ギャングのボスから間諜にあてがわれた相棒がなぜか元南軍兵士で、ジェシー・ジェームズが戦友だったというヴァージニアン(残念ながらジョン・カーターとは関係がないらしい)なのだが、当然正体はまともな人間ではない。それに稀代の魔術師アライスター・クロウリーをモデルにしたというマルカトーなる(胡散臭い)人物が加わって、トリオで暗黒街に巣食う不気味な魔物を退治しようとする。導入部から前半部分はとにかく会話の中で出ている人物も含めて登場人物が虚実入り混じって多彩であり、歴史に興味のある読者なら楽しくなってくること確実だ。クライマックスになると敵の正体も明かされ、ある場所で一大クトゥルー活劇が展開されるのだが、魔物退治トリオが三者三様の活躍ぶりを見せてくれて嬉しい。オリジナルとの繋がりは明白で、直接の続編と言ってもいい作品だ。

 朝松健先生の作品は、自分にとっては(恥ずかしながら)初なのだが、クトゥルー・ミュトス・ファイルズでは他にも二冊出版されているとのことなので、続けて読んでみたい。

 次に立原透耶先生の『青の血脈~肖像画奇譚』。この小説は中国伝奇小説+クトゥルーものというなんというペダンチックな伝奇物語かと驚かされる一編。11の掌編から構成されているのだが、時空を飛び越してあちこちで怪異が展開するため、読んでいる方は大混乱だ。しかも、H.P.L.のみならず(大男だった)R.E.ハワードや、アンブローズ・ビアズ等アメリカが生んだ怪奇小説の大家がさりげなく登場し、加えてドリアン・グレイやマイケル・リーと言ったフィクションの人物が主役級で登場するという贅沢さ。邪悪な魂が転生を繰り返して世に害悪をもたらすという壮大な長編の断片のような作品だ。

 この作品には元ネタを知らないエピソードも多く出てきており、立原透耶先生の古今の怪異書に関する博識ぶりにはほとほと感心した。一度じっくりご本人にお話を聞きたい。

 最後はくしまちみなと先生の『妖術の螺旋』。朝松健先生が生み出したという夜刀浦市という房総半島の架空の都市を舞台にした怪異譚。主人公は女子大生で、ライトノベル的な作品だ。主人公は先祖が成功したという錬金術を試し、実際に金を作り出すが、もっと大量の金を取り出すためには先祖が住んでいた夜刀浦市の屋敷で回教琴という古書を見つけなければならないことを知り一人赴く、が・・・。どうやらこの夜刀浦市には「旧きもの」のしもべが多く暮らしており、それはそれで怖いのだが、このお話ではもっと怖いことが起こってしまう。ラノベ的なキャラ設定や会話と展開される本格派クトゥルー小説的怪異とのミスマッチに不思議なユーモアが感じられる作品だ。

 くしまち先生はゲーム作家とのことで、キャラクター設定と展開の早さに感心してしまう。是非先生の作られたゲームに挑戦してみたいと思う。

 こういう和製クトゥルー作品が普通に出版される時代となったことは、古い人間にとっては驚きかつ羨ましく思う、しかし、それ以上にファンとしてとても喜ばしいのだ。
  • モリアーチー
  • URL
  • 2013/10/08 (Tue) 14:09:33
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